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パタゴニアの冷たい風が磨く、トレインタ・イ・ドスの静かな深紅

Bodega ChacraのTreinta y Dos 2021は、パタゴニア・リオ・ネグロの冷涼な気候と古樹の個性が重なる洗練された赤ワインです。ピノ・ノワール主体の緻密な造りを軸に、透明感のある果実味と塩味を帯びた余韻が魅力として語られます。

BUDOU-LOG編集部
パタゴニアの冷たい風が磨く、トレインタ・イ・ドスの静かな深紅

パタゴニアの風に磨かれた、静かな深紅の輪郭

Bodega Chacraの歩みと、リオ・ネグロで築いた新しい名声

Bodega Chacra(ボデガ・チャクラ)は、2004年に創業した比較的新しい生産者ですが、アルゼンチンの赤ワイン史の中ではすでに特別な存在感を放っています。拠点はパタゴニアのリオ・ネグロ州、特にメンドーサとは異なる冷涼な大陸性気候に恵まれたサン・パブロ・エリアにあり、古くから残るブドウ畑を丁寧に再生してきました。なかでもオーナーのピエロ・インチーザ・デッラ・ロケッタが注目したのは、世界的に見ても稀少な古樹ピノ・ノワールのポテンシャルです。

この生産者は、化学的な介入を抑え、土地そのものの声を引き出すことを重視することで知られています。畑では有機栽培をベースに、古い樹齢の株を守りながら、自然と対話するような農法を徹底していると言われています。アルゼンチンの「力強い赤」というイメージに対して、Bodega Chacraはむしろ緻密さ、静けさ、透明感で勝負する名門として位置づけられています。

Treinta y Dos 2021に宿る古樹ピノ・ノワールと、極力介入しない造り

Treinta y Dos(トレインタ・イ・ドス)は、Bodega Chacraの中でも特に畑の個性が際立つ銘柄として知られています。ラベル名は畑や区画の呼称を示すもので、複数の古樹区画の中でも選び抜かれたブドウから仕込まれる限定的なキュヴェです。使用品種はピノ・ノワールで、リオ・ネグロの冷涼な環境がもたらす細かな酸と、熟した赤系果実のバランスが核になります。

醸造は、果実の純度を損なわない方針が貫かれています。除梗の有無はロットにより調整されることがありますが、一般的には野生酵母による発酵、過度な抽出を避けた穏やかなマセレーション、そして木樽での熟成が採用される傾向があります。新樽の香りを強調するのではなく、古樽や中立的な樽を使い、ワインの輪郭を整えることに重心が置かれているとされます。2021年は冷涼な年らしい張りと精密さが出やすく、価格帯は約14,000円と、日常酒というよりは生産哲学を味わう一本です。

グラスの中の物語、赤い果実と石灰の気配がほどけていく

グラスに注ぐと、色調は淡いルビーから中程度のルビーへと移ろい、ピノ・ノワールらしい透明感がまず印象に残ります。粘性は控えめで、グラスの内壁に残る涙も繊細です。第一香では、クランベリー、レッドチェリー、フランボワーズのような赤系果実が中心に立ち上がり、そこへ乾いたバラ、スミレ、ほんのりとしたスモーキーさが重なります。少し時間を置くと、鉄分を思わせるミネラル感、湿った土、紅茶葉、白胡椒のニュアンスが開き、香りの層が静かに深まっていきます。

口に含むと、アタックはしなやかで、果実味は控えめながら芯があります。中盤では冷涼地らしい張りのある酸が輪郭を支え、タンニンはきめ細かく、舌にざらつきを残しません。派手な厚みではなく、果実、酸、ミネラルが一直線に通るような精密さが魅力です。余韻には赤いベリー、ハーブ、かすかな燻香が残り、最後に塩気を帯びたような清涼感が伸びていきます。2021年は特に、凝縮感よりもバランスと緊張感が際立つヴィンテージと評価される傾向があります。

食卓を彩る料理、繊細な赤身と旨味のある皿がよく映える

Treinta y Dos 2021は、重厚なソースよりも、素材の輪郭が見える料理と相性が良いタイプです。たとえば、鴨胸肉のロースト・赤ワインとベリーのソース、仔羊のロースト・ローズマリー風味、きのこのリゾット・パルミジャーノ仕上げなどは、ワインの酸と赤系果実に美しく寄り添います。

さらに、ホタテのポワレ・焦がしバターとハーブ、豚肩肉の低温ロースト・マスタードソース、鰹のたたき・山葵と香味野菜のように、旨味と香ばしさを持つ料理とも好相性です。和食なら、鶏の炭火焼き、茸の土瓶蒸し、脂ののった鮪の赤身といった、繊細だが旨味の輪郭が明確な一皿が向きます。熟成チーズでは、コンテやミモレットのような硬質タイプも合わせやすく、ワインの静かな張りを引き立ててくれます。

リオ・ネグロのサン・パブロから広がる、パタゴニアの冷涼なテロワール

産地であるアルゼンチン・パタゴニアのリオ・ネグロは、国の南部に位置し、アンデス山脈から遠く離れた乾燥した大陸性気候が広がるエリアです。昼夜の寒暖差が大きく、降雨量は少なく、風が強いことでも知られています。こうした条件は、ブドウにゆっくりと成熟の時間を与え、香りの精度と酸の保ち方に大きく寄与します。

Bodega Chacraの畑は、リオ・ネグロ川沿いの古いブドウ栽培地にあり、砂質や沖積由来の土壌が中心とされます。とりわけサン・パブロの周辺は、冷涼でありながら日照に恵まれ、古樹ピノ・ノワールが細やかな果実と石を思わせるニュアンスを蓄える土地として注目されています。フランスのAOCやClimatのような厳密な区分とは異なりますが、ここでは川と風、古樹と乾いた土壌がひとつのテロワールを形づくっています。Treinta y Dos 2021は、その土地の静かな強さを、グラスの中にそのまま映し出した一本です。

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BUDOU-LOG編集部